これから広告運用を教える立場に立つあなたへ ~良い指導者の心得~

広告運用は、取り組んだことが直接的に成果に結びつきやすい、仕事の手触り感を得ることのできる魅力的な仕事です。同時に、覚えなければいけない知識は多く、正確性の求められる難しい仕事でもあります。
そんな仕事だからこそ、教える側のスタンスが、教わる側の成長や仕事の楽しさに与える影響は小さくありません。成功体験を重ね、自信をつけてぐんぐん成長していく人もいれば、細かな作業に追われ、ミスを恐れる日々を過ごし、広告運用が嫌いになってしまう人もいます。そのどちらに振れるかは、教える側の振舞いやスタンスで決まってしまうことさえあります。
この記事では、広告運用を教える立場に立つ人に向けた「良い指導者の心得」をシェアします。より良い広告運用の現場づくりの一助になれば幸いです。
※以下は、弊社内で運用している「ストラテジスト指導ガイドライン」の内容の一部を抜粋したものです。

初学者であることを忘れない

新たな専門分野に身を置き、はじめて業務を行うとき、人は「分からないことが、分からない」という状態にあります。分からないこと、知らないことは調べようもないので、習熟度に応じた丁寧な指導が必要です。「裁量」という名のもとに、雑に仕事を依頼したり、丁寧に教えることをおざなりにしたりしてはいけません。
そして、業務を教える過程で、「どうしてこんなことも分からないの?」「なんでこんな間違いをするの?」と思うこともあるかもしれません。でも、その間違いは、過去にあなたもしていたはずです。似たようなことを、似たようなレベルで経験していたはずです。
あなたは広告運用について、すでにたくさんの経験をしてきたため、初学者であった頃のことを忘れているだけなのです。 初学者がミスをすることは「当たり前のこと」と認識した上で、丁寧に指導することを心がけましょう。

「価値を認めること」と「一歩先のハードルを用意すること」の両輪を回す

業務経験の少ないメンバーと一緒に仕事をすると、ミスや間違いに目が向いてしまい、レビュー(意見やアドバイス)ばかりをしてしまうことがあります。しかし、これを毎日繰り返していると、被指導者が前向きに業務に取り組むことが難しくなります。指導者がすべきことは、良かった点や出来たことを見つけ、どのような水準の業務であれその価値を認めることです
「配信調整の感覚が掴めてきたね」、「毎日のレポート更新は完璧だね」、「ほとんどミスが無いのがすごい」など、どんな小さいことで構いません。目の前にある仕事の価値を認めることで、人はやりがいや仕事の楽しさを学んでいきます。
そして、常に一歩先のハードルを用意することを意識しましょう。難易度が高すぎても、逆に簡単すぎてもいけません。 「能力と挑戦のバランス」が絶妙に取れているとき、人は成長しますこの2つのポイントを抑えていると、
👍🏼
仕事で成果を出す → スキルの幅が広がる → 自信が生まれ、周りから認められる → 高難易度の仕事が与えられる → さらに成果を出す → さらにスキルの幅が広がる → さらに自信につながり、周りから認められる → さらに高難易度の仕事が与えられる …
という成長のフィードバックサイクルが回り、これが「勝ちグセ」となります。
仕事ができるようになるということは、役割とそれに伴う責任範囲が拡大していくことです。小さな役割に対して責任を担い、そこで勝ちグセをつけてもらい、徐々にその範囲を広げていってもらいましょう。

業務専門スキルを網羅的に教えようとする必要はない

「指導」という役割に向き合うとき、あなたは「業務専門スキルを網羅的に教えなければいけない」と考えてしまうかもしれません。しかし、その必要はありません。なぜなら「将来必要になるかもしれないが、今は使わないスキル」はすぐに忘れ去られてしまうからですとても効率が悪いのです。
例えば、あなたが担当する支援では「データフィード」を使うことがないのであれば、データフィードについて実務手順を教える必要はありません。業務専門スキルは、「必要性が出たときに学ぶ」ことが一番の近道となります。その原則を、指導の方針に組み入れておきましょう。

業務完了の状態定義を徹底する

「作業」であれば「完了状態」を、「アウトプット」であれば「アウトプットイメージ」を、必要以上に共有しましょう。熟練者のイメージするものと、初学者のイメージするものが一致することは、まずありません。
そして、同時に「業務の目的」を伝えることも徹底しましょう
例えば、あるデータの集計を依頼するときに、求める状態定義として、「IMP、CT、CTR、CV、CVR、COST、CPAがキャンペーンごとにわかるように3日後までに集計してください」という指示を出したとします。これだけでは、ある人は綺麗にExcelを使って表を作るかもしれません。またある人は管理画面のキャプチャだけを送るかしれませんし、ある人はチャットツールに数字をベタ打ちするかもしれません。
しかし、依頼時に「データ集計は顧客用ではなく、自分が現状把握をするために利用したい」という依頼の目的を伝えれば、綺麗にレイアウトされた資料は不要であることがわかります。
また、タスクの目的とゴールイメージを明確に伝えるための方法として、
  • テキストにまとめて依頼を出す
  • 口頭で依頼した場合は、相手がメモを取っているかどうかを確認する
  • 依頼を復唱してもらい、正しく伝わっているかを確認する
といったことを実践してみてください。

自ら調べ、自ら考える習慣を身につけてもらう

指導者としてあなたが担う責任は、「業務説明」ではなく「メンバーの課題解決能力の向上」です。
ただし、課題解決能力とは、必ずしも「論理的思考能力」や「抽象化力」といった特定のスキルを身につけることだけではありません。課題解決能力の向上において重要なことは、必要なスキルや知識を自ら調べ、「それらを体得するための習慣を身につけること」です。
例えば、「広告カスタマイザ」の使い方は、やり方を伝えてあげればできるようになりますが、それは課題解決能力を獲得したとはいえません。それらのスキルや知識の必要性を認識したときに、「自ら学ぶことができること」が重要です。自ら考え、情報を集め、正しい使い方を習得することこそが、課題解決能力の要です。

期待を高く持たない

指導を前提にしてタスクを任せるときは、必ず余裕を持ってください。言葉を選ばずに言えば、期待を高くもってはいけない」ということです。
あくまでタスクは支援の中にあります。広告運用支援において、顧客と合意している品質や期日があります。広告運用は、精密な作業がリアルタイムに求められます。品質と期日は絶対です。あなたは被指導者に依頼したタスクについて、状況に応じて巻き取る可能性を常に考慮しなければなりません。
加えて、広告運用上のミスは配信事故につながります。配信事故によって発生するチェック業務や顧客への説明コストは、中長期にわたって個人と組織の生産性に悪影響を与えます。ミスによって失うものは、想像以上に大きいのです。
ゆえに、広告運用という支援の性質から、被指導者には、最初はスピードよりも正確さを求めましょう。「初めての作業だけど、単純な作業だから恐らく大丈夫だろう」といった楽観思考は、広告運用の現場においては厳禁です。どこかに想定外のミスや漏れが潜んでいる可能性に備えて、余裕を持ってタスクを依頼しましょう。

期待を合意形成する能力を身につけてもらう

支援の成否は、「顧客の抱く期待と成果の差分」で決まります。ゆえに、顧客の期待を理解することは、最重要事項であると同時に最も難度の高い業務のひとつです。
「顧客の責任者になること」とは、「目標と業務範囲について、顧客と合意形成する能力を会得していること」といっても過言ではありません。
これを会得する方法は、経験によって身につけていく他にありません。それが最善であり、唯一の方法です。どのようなときに顧客の期待が高まり、逆に低下するのか、顧客とのコミュニケーションの度に被指導者にフィードバックを重ねていきましょう。
 
以上、 私たちが現場で運用している指導ガイドラインの一部でした。この記事が、業界のより良い広告運用の現場づくりの一助になれば幸いです。

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